06 | 2025/07 | 08 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
無垢の花神様というお方は実に無垢であられます。あまりの穢れなさに末娘を心配なさるパパーのご配慮で、無垢の花神様は常に一つ上の姉君であられる眠り姫神様と共におられました。お二人はいつでも手を繋いで、朝から晩まで、寝る時までご一緒しておられます。
ある晴れた日のこと(特別なことがない限り天界はいつも晴れていますが)、いつもと変わらず、天界の花園には手を繋いで歩く愛らしいお二人がおられました。小さな花、大きな花、愛でておられた折、眠り姫神様が足を止められました。手を繋いでおられた無垢の花神様もなにかと姉君様の視線をたどられました。
「あ、トリさん!」
巣から落ちて戻れなくなった雛が木の根元で鳴いていたのを見つけられました。娘神様方は不憫に思われ、心優しく道義心の強い姉神様は雛を戻すのだと木に登ることとなりました。
「フロール。いい? フロール。ここでよい子で待っているのよ。雛を巣に戻したらすぐに下りて来るから、動かずに待っていてね。約束」
「うん、やくそく! フロールまってる、イイ子で下からおうえんしてるね!」
そして眠り姫神様は木を上り始めました。
無垢の花神様は姉神様とのお約束どおりじっと動かず上を見上げておられました。
そのときです。
無垢の花神様のすぐ側に、いちごミルクキャンディーが落ちていました。
「いちごみるく!」
無垢の花神様は一歩近づいて手に取られました。すると今度は、チューリップの下にイチゴ大福が和紙の上に落ちていました。
「いちごだいふく!」
無垢の花神様は駆け寄って手に取られました。すると今度は、カーネーションの下に傘の形をしたチョコレートが落ちていました。
「あぽろ!」
無垢の花神様はさらに走っていって手に取られました。すると今度は、マーガレットの下にきれいな花冠が落ちていました。
「花のかんむり!」
無垢の花神様は花畑を駆け抜け、手に取られ、ご自分の頭に乗せました。すると今度はガーベラの下についに、籠いっぱいのイチゴが落ちていました。
「いちごさん!」
無垢の花神様はもろ手を上げて駆け出し、籠に抱きつきました。すると今度は、ハイビスカスの木の下に、壺が落ちていました。とてもいい匂いがして、近づいた無垢の花神様は壺の中にとろとろに溶けたチョコレートを見つけました。
「あぽろ!」
早速、無垢の花神様は籠の中から一番大きなイチゴを、手が汚れるのも構わず、チョコレートに浸しました。
「いただきまーす!」
無垢の花神様は突然落ちてきた鳥籠に収まり、鍵をかけられました。
「フロール、やっと掴まえた! もう放さないぞ!」
無垢の花神様とイチゴとチョコレートの壺の入った鳥籠は軽々担がれ、そのまま連れて行かれてしまいました。
≪第二機動隊出動。第二機動隊出動。直ちに参謀本部に急行せよ≫
「オンラード到着しました」
「カサドラ到着しました、お兄様ご命令を!」
「デスコンフィアル到着」
「ソルダーダ到着しましたぁ」
第二機動隊が見たのは、兄弟を統括する兄君様の足元で号泣する下から二番目の妹君様の姿であられました。
「わ、わ、わ、わた、と、と、ひ、ひなを、き、ひなを、きに、ふろ、るが、ふろ、ふろ!」
「スエーニャが目を離した隙にフロールが消えた。首謀者はわかっている。第二機動隊、直ちに現場に急行し、誘拐犯パヤーソを捕縛せよ!」
ベヘリス第二機動隊は出動なさった。
「フロール! やっと会えた、俺のフロール! ああ、どれだけこうやってお前を抱きしめたかったか、フロール!」
抱きしめられた小さな無垢の花神様は、見上げた兄神様を呆然と見つめて首を捻られました。パパーによく似ておられる兄君様の名。
「えっと、えっと、デス兄さまじゃなくて、えっと」
「フロール! 俺のこと忘れたのか! ……うう、仕方ないか。随分長いこと離れていたからな。あのクソオヤジの陰謀のせいで。しかし、これならわかるだろう?」
兄君様が仮面をご自分の顔にかざされたと同時に、無垢の花神様は花が満開になるように微笑まれ、兄君であられる道化師神パヤーソ様に抱きつかれました。
「パヤーソ兄たま!」
「フロール! 思い出したか、うれしいぞ! 愛してる!」
「兄たま! おひさしぶり、どこへ行っていたの?! 兄たま!」
「うん……話せば長いんだ。それよりも今は、ようやく出会えた二人の時間を大事にしようじゃないか、フロール。お前の大好きないちごをお土産に持ってきたんだよ」
「うん、ありがとう!」
「うまいか?」
「かごがふってきたからまだ食べてないの」
そうお話しされる無垢の花神様はいまだ鳥籠の中におられました。花の冠を乗せ、イチゴの籠を大事に持つ妹君様を道化師神様はうれしそうに見ておられました。
「かわいいなぁ、フロール。手がチョコで汚れてるじゃねぇか……フロール。そのイチゴ、俺に食べさせてくれるか?」
「いいよ。いちばん大きないちごよ。チョコはもっとつけたほうがおいしいよ。はい、あーん」
「ははは、また手までチョコつけやがって~。よーし、兄たまが綺麗にしてやるからな、あ~ん――」
怒涛の勢いで入り口が壊され、窓から壁から天井から第二機動隊が突入なさいました。あっという間に道化師神様は捕縛され、お父上であられるパパーの元へ連れて行かれることとなりました。
「パヤーソ。お前、自分がなぜ幽閉されていたか覚えているか? まだ成長してもいない幼い妹に手ぇ出したからだろうが、この愚息! てめぇこりずにまたやるか! もっかい豚箱にぶち込んでやる、頭冷やして来い!」
「パパー、御慈悲を! また幽閉されたら完全に忘れられる!」
パパーは連行される息子神を振り返って、微笑まれました。
わたくし共のような卑しい心を持つ下々の者には「いい気味だ」と仰っている様に見受けられましたが、宇宙の父たるパパーがまさかそんなことはありません。
「クソオヤジィイイ、おぉぼえてろぉおお!」