慈悲深きママーがさめざめと泣かれる中、横たわっていた黒の騎士神様の睫が震え、ゆっくりと起きられた。
「ママー。俺のせいで泣いているのですね。悲しませてごめんなさい」
「ネグロ。兄弟げんかもほどほどにしないとだめだよ」
黒の騎士神であるネグロ様は、すべてのベヘリスがそうである様にママーを悲しませてしまったことに心を痛めた様子で頷かれた。それから部屋を目で探ぐり、ママーに尋ねられた。
「サビーオは。ママー、サビーオは無事ですか。すごく酷く殴ってしまったんです」
「ちゃんと治したよ。もう元気に仕事しているよ。あ!」
居場所が知れたとこで、飛び出すように部屋を出ようとした黒の騎士神様をママーは留められた。きっと、またお二人が衝突するを危惧したのでしょう。ママーの不安な顔の意味するところを黒の騎士様も読まれた。
「もちろんです、ママー。俺は兄弟の誰よりも、双子の兄よりも、弟のサビーオを一番愛しているのですから。そしてサビーオも僕を一番慕ってくれているのですよ」
偽りのない笑顔にママーは安堵された。
一秒さえ惜しむように賢者神様のもとへ懸けつけた黒の騎士神様は、元気な弟神様の姿に、
「サビーオオォォオオ!」
アタックなされた。そしてお二人揃って壁に衝突なさった。
「サビーオ! 無事だったか?! 僕が殴ったトコ痕になってないか?! あぁ、よかった、治ったんだな! サビーオ、ゴメンな。お兄ちゃんが悪かった。殴る気なんてなかったんだ」
等々、黒の騎士神様は弟神様に平謝りなされた。しかし、賢者神様は兄神様の手を払い退け怒鳴られた。
「悪いと思うなら、最初からやるな! ……何してるんだよ、手を放せバカ兄貴! 服を裂くな!」
弟神様を覆う布を慌しく取り払おうとなさる黒の騎士神様。賢者神様が抵抗し、殴りかかるも、兄神様は何のそのと攻撃をかわされる。
「俺だって、お前を殴るなんてしたくなかったんだ。でもお前があんまり素直にならないから……まぁいい。俺が死んでた間、浮気はしてないだろうな!」
「ついさっきだろうが、俺もあんたも生き返ったの! つか、人の話し聞け! だから、止めろ!」
「愛する者同志の自然の行為をなんでお前は恥ずかしがるんだ!」
言葉の押収の間にも黒の騎士神様は弟神様を神聖な姿にされ、殴られつつも床に縫いつけ、彼の方の御足を広げられた。賢者神様は兄神様に力任せの愛撫をされながらも、必死の抵抗をされた。
「まず第一に、俺とあんたが男同士で、第二に、俺たちは愛し合ってないからだ!」
その言葉に激怒された黒の騎士神様は弟神様のほほを叩かれた。
「サビーオ! またお前はそうやって兄の愛を試そうとする。だが俺はそのすべてに応え、お前への愛が本物であると証明するさ。そしてお前の不安を取り除いてやる」
「だぁ、から違うぅん! あんた考えがポジティブすぎ!」
「サビーオ! どうしてお前はそう、素直になれないんだ! たしかにな、嫌よ嫌よも好きの内と言うが、あまり過ぎると可愛くないぞ! お前は可愛いけどな!」
「いい加減に気づけよ、バカ兄貴! 嫌なのは嫌なんだよ! 俺は女が好きなんだよ! あんたなんか好きじゃないんだよ!」
一瞬、黒の騎士神様は動きを止められ、能面のようになられた。賢者神さまは散れ散れになった布を抱きかかえ、息を呑まれた。
黒の騎士様は、手を上げられた。抵抗なさる弟神様を何度も殴られる。
「ウソだ! お前は俺が好きなんだろう、サビーオ! いくら俺に焼き餅を焼かせようたって、ほかの者に身体を許すのは絶対に許さないからな! 女でもだ! 絶対にだめだ! そんなことをしても俺は悲しいだけだぞ! あぁ、不安だ! お前はきっと俺の愛を疑ってそうするに違いないな! 来い、わからせてやる! いいか、そんなことをしなくても俺はお前を愛しているんだ! だからお前は素直に俺を受け入れればいいんだ! 俺たちの間に駆け引きなどいらないんだ! 俺たちの間には、駆け引きも、服も、言葉も、なにもいらないだろう! そうだろう! お前も俺を愛しているだろう、サビーオ! あぁ、愛してる、俺のサビーオ! サビーオ!」
正体を失ったように強引に行為を行う黒の騎士神様は、突然我に帰られた。
「……――サビーオ!」
だらりと床に投げだされた賢者神様の手をお取りになられ、黒の騎士神様はご自分の所業に目を見開かれた。血を流し、心臓の止まられた弟神様に覆いかぶさる格好のまま呆然とする黒の騎士神様は、やおら御遺体を抱きかかえられた。そして一筋涙を流し、呟かれた。
「あぁ、俺またやっちゃった」
弟神様の亡骸を、驚かれるママーに手渡された後、黒の騎士神さまは父神様であるパパーのもとへ参上なされた。パパーは全てをご存知だった。
「パパー。またやっちゃいました。サビーオに会わす顔がありません。罰をお与えください!」
「おう。毎回毎回、よく飽きもせず……もう何も言う必要はねぇ。逝って来い、この愚息が」
私たちは偉大なるパパーに八つ裂きにされた黒の騎士神様のご遺体を、ママーのもとへまたお運びした。
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